夜の冒険2
昨日ユリウスがこのファームから次のファームへと旅立ったが、ユリウスとの最後の冒険について書こうと思う。
3日前の金曜日、みんなでトランプをした後に
「前の空き家の残りを探検しよう」ということで、参加者を募ったが今回はユリウスと僕の2人。時刻は9:40PM。
その日の外の気温は大体6度くらい。外に出るため、僕はネックウォーマーと手袋、ダウンジャケットを身に着ける。
ユリウスも耐水性も備えているであろう暖かそうな紺色のコートを羽織る。
準備が出来たので、他のみんなと別れを告げ以前の空き家へと向かう。
今回はユリウスから懐中電灯を貸してもらった。「MADE IN CHINA」と書かれた小さな懐中電灯。ユリウスが同じものを2個持ってたとのこと。小さいけれどかなり先まで光が届く。
懐中電灯はポケットにしまい、真っ暗な道を進む。以前は近くの畑でトラクターが稼働していたが、その日は金曜日ということもあり、聞こえるのは草や虫の音、僕らの足音くらい。
ほどなくして、空き家に到着。前回と同じ要領で割れた窓から中へ侵入する。
柵を超え、通路に降りる。
「とりあえずこれを持っておこう」
と通路に落ちていた鉄パイプを渡される。まああんま意味はないかもしれないけど、武器があるだけ安心感はあるかも。僕は思う。
が、ちょっと重たい。長さは大体50cmくらいだけど10㎏はあるだろう。
その鉄パイプを胸下あたりで握りしめ、右ひじに掛けるような形で構える。右手の小さな懐中電灯を左顔に持っていくようにしてあたりを照らす。
前回は牛小屋や物置など、農場を探検したので今回は住居エリアを探索する。
前回物音がして引き返した場所まで進む。
規則正しく並べられた空き瓶、馬の絵が描かれた部屋に入る。以前はサッと通り過ぎたが、今回は机の上もしっかり見てみる。
ねじや懐中時計、新聞、誰かからの手紙。新聞の日付けを見てみると、
1995年。
今から20年以上も前だ。
「めっちゃ昔だね」とユリウスと小声で会話する。
右側に扉があったので、そこに進む。ドアノブを下げ、少し向こう側に押し一度様子を見る。その後、足で勢いよく開ける。
何もいない。
目の前には階段。その道中にはガラスが散乱している。危険なにおいが充満してる。ゾワッと鳥肌が手の先から中心に向かって駆け抜ける。
「マジで上がるの?めっちゃ行きたくないんだけど」と僕。
「俺も怖いけど、一応行こうぜ」とユリウス。
まじかー。立ち止まってても仕方がないので、僕が先頭に立ち階段を進む。一人が通れるぐらいの広さだ。進むたびに、ジャリジャリとガラスが音を立てる。
上がった先には、赤文字でドイツ語が書かれた白いドア。
「なんて書いてるの?」と僕。
少しひきつった顔で「この先に入るなって書かれてる」とユリウス。
これ以上は進みたくない。
意見が一致して階段を引き返す。
馬の絵が描かれた部屋に戻り、その先へ進む。
棚が不自然に開いたキッチンを抜け、以前引き返したリビングのような場所に出る。
上にはシャンデリア、下には完成したジグソーパズルが落ちている。そして白い布がかかった椅子。
そしてまたしても階段。
今度は広め。さっきも上に上がっていたこともあって抵抗なく進む。
今度は壁にこんな文字。
なんかは知らんけど、パーティーにようこそとか書かれてるらしい。
気味が悪い。
階段を上がった先には、左右に2つのドア。
右側から順に散策。
天井のコンクリートが床に落ち、散らばっている。その横にダブルベッド。
左側のドアの先にはさらにドア。左側に通路が続き、目の前には子供が書いたであろう、クレヨンで書かれた絵が貼られたドアがある。
本当に進みたくなかった。
異様なまでに五感が冴えている気がする。特に聴覚。風の音、車の
音、進むたびに僕らが起こす足音、建物の軋み。
探索を続ける。
所々コンクリートが散らばった部屋がある。いくつ見ただろうか。4部屋くらいはこんな感じだろう。ライトを照らした時、隅っこに何かいるんじゃないだろうか、
そんな恐怖と戦いながら部屋の扉を開けていく。
奥に進んでいくと、また赤文字で何かの書かれたドアが先に見える。
おそらくだが、位置的に先ほどのドアの裏側に来たんじゃないだろうか。
そこの反対側の壁は、レンガが落ち、丸くぽっかりと穴が開き隣の部屋が見えた。
ここの部屋に入った途端、僕の持っている懐中電灯の光が、弱まったり強まったりを繰り返す。
「電池が多分少ないんじゃないかな」とユリウス。
とりあえず懐中電灯のスイッチを切り、携帯電話のフラッシュライトに切り替える。
少し間をおいて、
「もう戻ろう」とユリウス。
僕はうなずき、踵を返す。
横目に見えるいくつものドアを通り過ぎ、階段を降り、馬の描かれた部屋を通り抜け、牛小屋まで戻り、入ってきた窓から外に出る。
そして
二人で30mほどダッシュ。
「今回の奴は怖すぎたな」
と2人で会話しながら、
「幸いなことに生きてるね」
とかいいながら、家に戻った。時刻は11:00。
そんな一日。